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名札のない少年

「先生、みんなに言って」
   孤立した4年生
  Sの叫びの日記
  担任に託す”教室の再生”

平  治(筆名)

2000年4月19日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

名札のない少年

 始業式−どんな出会いが生まれるか?期待と緊張いっぱいで校庭に並んでい る子供たち。私の前にいた四年生の中に一人だけ、名札のついていない少年が いた。
 名札がついていない、ということは大したことではないように思われるかもしれな い。しかし、教師を生業にしていると、このような一見瑣末(さまつ)に見えること に、さまざまな思いを巡らす。新たな出会いの日に、名札をつけていないということ に、何らかの事情を想像してしまうのである。
 気になって、三年生の時の担任に、彼の名前を尋ねた。彼は今日から私が受け持つ 四年二組の一員だったからだ。前担任は、「去年一年間、問題行動でよく名前が上 がっていたSだよ」と教えてくれた。

■不安をごまかして■

 始業式が終わり、子供たちが待つ教室に入った。Sだけが、他の子から離れて廊下 側の前の席にぽつんと座っていた。
 彼は一人机が離されていても、ニヤニヤしている。私にはどうしていいのかわから ない不安をごまかしているように見て取れた。
 私はSの机を近くの子と同じ位置にそろえようとした。が、子供たちは、その机か らさらに自分の机を遠ざけようとする…。
 すぐに入学式を控えていたので、私は四年生になって一日目のことを日記に 書くことだけを告げて、慌ただしく子供たちと別れた。
 何とも言えない”陰湿な空気”をぬぐい去ることなく、出会いの日は終わってし まった。
 二日目−前担任から「Sは宿題など、ほとんどやることもない」という情報を得て いた。ところが、予想に反して、彼は日記を書いてきていた。全文を、原文のママに 紹介する。
 ≪ みんなにゆてください。生先 からみんなえ  せんせい ぼくのことみんなば か とか、ばいきんとかいろいろゆはれるので かなずみんなにいってください おねが いします≫
 昨日の机のことも、これで納得がいった。彼は、クラスの中で孤立しているのだ。 今までの教室の中には彼の居心地のいい場所はなかった。しかし、新しい担任に 自分を託そうと訴えている。「先生だけが、この教室の構造の破壊・再生させること が出来る」と。 

■よさを見つける眼■

 出会いの二日目は、班作りが予定されていた。
 子供たちが考えた方法で瞬く間に班は決まっていった。子供たちは、仲のよい友 達と一緒の班になれたことに喜々としていた。でも、案の定Sだけはどこの班にも属 していない。
 彼には誰一人、目をくれようとしないのである。
 歓声があがっていた教室に担任からの一声、「これではだめです」が告げられ、 やっと子供たちはSのことに気がついた。
 「S君だけひとりぼっちです。S君のいい所はないのですか?」。私の問いにこた え、いい所を話してくれたのは、わずか二人。
 「一年間一緒に生活していて二人、二つしかS君のいい所を見つけられないので すね。それほど、このクラスはさびしい生活を送っていたのですか」。私もややきつ い口調になった。
 ようやく、他の子が話し始めた。
 「小さい子と遊んでくれます」「転校生のN君に話しかけていました」…というよ うに。
 一人残らず発言するまでに三十分ほどかかったが、全員が実はSのよさを知ってい たことは大きな収穫であった。子供たちには、本当は友達のよさを見つける眼がある のだ。
 Sのよさが発表されるごとに、少しずつではあるが、教室は温かい空気に包まれよ うとしていた。
 しかし、この一つで「名札のない少年」がクラスの皆に受け入れられる程、子供 の世界は甘くはない。

Sが本当の意味で学級に受け入れられるのは、いつの日になるのだろうか。

<次週に続く>

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